猫集会

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 暗黒の高校生時代
、私は小田急線沿線のとある新興住宅地に住んでいた。そこは丘陵地帯で、少しずつ宅地造成が進んでいたもののまだまだ未開の原野(つまりド田舎)で、日中そこら辺を歩く人はほとんどいなかった。
 初夏のある日、授業が午前中で終わった私は、駅から徒歩で家を目指した。家は辺鄙な場所にあり、どうがんばっても駅から歩くと30分以上かかるが、その日は何となくバスに乗る気がしなかったのである。
 滅多に歩かない造成中の小高い丘を登ると、あたりには誰もいない。日差しの強いなか、歩いているのは私1人である。 
 道の途中に猫がいた。しばらく行くと、また猫がいた。
「ここは猫が多いなあ」と思いながら歩くうち、やがて高台の広場のような場所に出た。そこで足が止まった。
 猫、猫、猫、猫。見渡す限り猫がいる。数十匹はいる。みな前足を立て、黙祷するかのように静かに座っている。
「まずいところに来てしまった」
 本能的にそう思い、そそくさとそばを通り抜けた。緊張と悲しみの入り混じった空気がふわりと漂った。
 猫が集まっていた広場を脱けた先に道路があった。そこに、猫の轢死体が転がっていた。「ああ、これだ」と思った。
 仲間の死を悼む猫たちの集会を、私は見てしまったのだ。

 何十年たった今も、あのときの光景は忘れない。人が人の死を悼むように、猫も猫の死を悼むのである。

2009.06.22