辰巳天中殺のみなさんへ その6

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 全国の辰巳天中殺のみなさんこんにちは。

 本宇宙船辰巳号も、いよいよあともう少しで地球に帰還する運びとなりました。
 みなさんには2012年2月4日からご乗船いただいておりますので、かれこれもう2年間お乗りいただいたことになります。
 時のたつのは早いもの、本当にあっという間でした。

 宇宙旅行の旅はいかがでしたでしょう、お気に召しましたでしょうか。何が起こるかわからない、まるで真っ暗闇の世界でマラソンしてるようなハラハラ・ドキドキ体験がお楽しみいただけたのでは・・・・・・、はいそちらの方、九紫火星の吉永さんですね何でしょう。
 え? 能書きはいいから一刻も早く地球に返してくれ? 1分1秒でも早く娑婆(しゃば)に戻りたい?
 うーんどうでしょう、前回ご乗船された寅卯天中殺の方たちも耐えがたきを耐え忍びがたきを忍びながら2月3日まできっちり頑張られたのですから、辰巳天中殺の方だけ特別というわけには。
 性別・人種・国籍・年齢・家柄・肩書き・逆上がりができるか否かを問わず恐ろしいまでに平等、それがこの「天中殺」という名の大宇宙の法則なのですね。
 いずれにしてもあともう少しですから、最後のひとふんばりお願いします。
 
 さあそれでは九星別に点呼を取りましょう。今回が最後のミーティングになりますので、気合いを入れていきましょう。
 ・・・・・・農民一揆の後みたいに船内のあちこちに人が倒れていますけども、意識のある方はお名前呼ばれましたら挙手お願いします。
 手を挙げる元気のない方はそのまま脱力して途方に暮れながら、もしくは誰かの名を呼び続けながら通路(みち)に倒れていてくださってかまいません。

 一白水星の方、はい。
 背中に矢が数本突き刺さってますね、今まで矢面に立たされて大変でした。自分のせいじゃないのに責任取らさたり、頼りになるはずの人がそっぽ向いちゃったり、あげくの果ては「お前が悪い」とみんなから責められたりと、孤立無援のなかでようがんばった傷は浅いぞしっかりしろ。
 天中殺明けの2月4日から少しずつ流れが変わります、今まで冷たかった人たちがいきなりこっちを振り向いて「あっ白石さん、ずいぶん長期間に渡り存在感を消していらっしゃいましたね。そういえばもうすぐお誕生日でしょう、バースデーパーティは帝国ホテルのインペリアルラウンジで行う予定ですがそちらでよろしかったでしょうか?」と笑顔で話しかけてくるかもしれません。
 ああっわりと人生悪くないじゃん、そういえば日照時間も日一日と伸びてぽかぽか温かくなってきたし、もう少しすれば桜が咲くよなあ、なんかじわじわ希望が出てきたぞみたいな気分に浸れるかと思います、山奥の温泉にのんびり浸ってサルに背中を流してもらうのもよろしいかもしれません。
 船長からメッセージを預かっております、ええとなになに、「the Oscar goes to・・・」いやこれ違った、そっちのカードだ。
「今まで先延ばしにしていた人生のお楽しみイベントが、これから束になってあなたのもとに訪れるでしょう」だそうです。どうぞお楽しみに。

 二黒土星の方、はい。
 砂糖壺から手が抜けたんですね、ずっと力入れてたんでちょっと腱鞘炎になってますけども、手が自由になってよかったじゃないですか。
 この2年間、辰巳の二黒は「執着心」という名の砂糖と戦い続けました。自分で「あきらめが悪いな」とわかってはいても、壺の中で握った砂糖をなかなか手放すことができなかった。
 しかし、手を開いてよく見てみてください、砂糖なんか一粒もついてないし、手がべたついてもいませんでしょう? はいもともと何もなかったんです、その砂糖には実体がなかった。
「そうか、自分は実体のない空気を一生懸命につかんでいたのだな」とわかっただけでも、この2年間は非常に貴重な2年間だったのではないかと思います。ちょっと難しいでしょうか。
 ええと人間の二大本能であり二大煩悩でありますところの色と金は実体がない、つまりただの「気のせい」でありますので、執着しても仕方ないちゅうことです。なめたときは甘いけれども、時間がたてば何も残りません。忘れてしまえそんなもん。
 さて、地球に帰還後の流れといたしまして、あなたの身の回りにあるものが四捨五入され、必要なものだけが手元に残るという段取りになっております。
 船長からのメッセージは「去る者は追わず、裸一貫でフレッシュな再出発をどうぞ」です。
 地球には重力がありますけれども、むしろ宇宙旅行をしていたころより身は軽く、心も晴れ晴れと、これから新しい人生がスタートするのではと思います。

 三碧木星の方、 あれいらっしゃいませんね。
 ・・・・・・あっ窓の外をクルクル回りながらものすごい勢いで飛んでいる! あのうどこへ行くんですかって聞こえるわけありませんね。仕方ないなあ、連れ戻しても連れ戻してもすぐ外に飛び出して何らかのトラブルに巻き込まれちゃうんだから。
 三碧さんって本当にじっとしてるのが苦手なんですね、でも無重力の世界に飛び出しても何もできないってこと、そろそろわかっていただけないかなあ。
 ええと2013年はやる気が空回りして気力・体力を消耗してしまった1年でした。ご本人は一生懸命頑張ってるつもりでも、第三者からは「暴風雨の中、向かい風に逆らってぬかるみの中を全力疾走してはる」「やめとき言うたんやけど聞かへんねん」とハラハラされていたことでしょう、お疲れさまでした。
 暗黒の大宇宙では判断力が麻痺しますので、できないことでも「できる!」って確信しちゃうんですよね。
 天中殺明け以降は徐々に正常な判断力と直感が戻ってくるはずです、周囲の意見やアドバイスを取り入れる心のゆとりも出てくるでしょう。
 船長からのメッセージは、と。「春以降、希望大陸への地図が手に入ります。早めに気力・体力を回復させて、壮大な冒険の旅に備えてください」とのことですって窓の外だから聞こえないか。しかたないなあ、あとでマジックハンドで回収しに行きましょう。

 四緑木星の方、はい。
 恋人から距離置かれたり配偶者からイライラさせられたり子どもが言うこと聞かなかったりママ友から罠にはめられたり舅姑が戦争仕掛けてきたり上司が行く手を邪魔したり同僚や部下がヘマこきやがるなどなかなかストレスフルな日々でした、と。顔で笑って心で泣いて、星空見上げて胸で十字を切りました、と。お疲れさまでした。
 辰巳の四緑はポーカーフェイスですから顔には出しません、出しませんけれどもハートはずたずた、ちょっとばかり傷が残るかもしれませんがそのうち治りますよ。
 え? トラウマになっちゃった? トラウマをお持ちの方はトラウマのない方より心の階層がぐっと奥深く複雑になります、つまり内的宇宙が広がります。広い宇宙と狭い宇宙、たった一度の人生でどちらがより味わい深いかと申しましたら前者です。
 そうですね、地球に着陸後はしばらく何もしたくないかもしれません、ええよろしいかと思いますそれで。重力に身体が慣れるまで無人島でのんびりジグソーパズルやプラモ製作やレース編みやビリーズブートキャンプに入隊するなど、好きなことをしてお過ごしください。
 船長からのメッセージは、と。あった、これだ。「あなたが今まで苦労したぶん、それを上回る報酬がこれから返ってきます。数値化すると概算で苦労の直径²×3.14です」ってそれ円の面積じゃないですか。
 まあいいでしょう、桜の咲くころには傷も癒え、新しい希望と目標が生まれることと思います。先は長いぞこれからだ、あせらずマイペースでいきましょう。

 五黄土星の方、はいお疲れさまでした。
 今回の宇宙旅行はものすごくきつかったのではないでしょうか。ピープル・チョイス(視聴者による選考)やコンテスタンツ・チョイス(出場者同士の選考)をもししたならば、「キング(クイーン)オブ辰巳天中殺」の栄光に輝くのはまさにあなたがたではないかと思います。
 特に昨年末から今現在にかけての修羅場ぶりはすごかったですね、普通に歩いてたらマンホールの穴に落っこちて下水管の中を猛烈な勢いで押し流され、大口開けたジョーズやワニに通せんぼされて命からがら這い上がったところがゾンビ村。ゾンビの姉ちゃん兄ちゃんに猛烈アタックされて隠れ込んだのが大竹しのぶがニコッと笑う黒い家という多彩なラインナップでした。
 しかしホラーな展開もそろそろ終わり間近です、辰巳の五黄はここで息絶えるようなやわなキャラじゃありません、全身ボロボロで真っ黒になりながらもゆっくり開いたその瞳は力強く澄んでいるというホープフルなラストシーンになるかと思います。
 エンドロールにかかる音楽はローリングストーンズの「イッツオンリーロックンロール」、もしくは小林旭の「もう一度一から出直します」になるでしょう、負けるな五黄、もうじき朝日が昇るぞ。
 船長からのメッセージは・・・・・・「新年明けましておめで」いやこれ違う、しかし最近のお年玉年賀ハガキってちっとも当たりませんね昔はそれなりに当たったのに、ええと「この2年間にあなたが体験した出来事に無駄なことは何ひとつありません、実に貴重な体験でした、どうぞ自信を持ってこれからの人生を五黄らしく傍若無人もとい力強く生きていってください」とのことです。
 地球に帰還後はへとへとにくたびれ果てていらっしゃるかと思いますが、いつまでも下向いてちゃだめですよ、カラ元気でもいいですからお天道さまに顔を向けて暮らしましょう。そのうち、細ーい蜘蛛の糸が上からするする伸びてくるはずです。

 はい、ここで少し休憩しましょうか。みなさんかなりお疲れのご様子ですからね。
 ご希望の方は視聴覚教室で「ゼロ・グラビティ」をご覧ください。これは辰巳天中殺の現在の姿をまんま描写した秀逸なドキュメンタリーフィルムです。
 たった1人で暗黒の宇宙空間を彷徨うサンドラ・ブロックをご自分の姿と重ね合わせて、彼女からサバイバル精神を学ばれるとよろしいかと思います。
 その他の方はそろそろ荷物のパッキングとお部屋のお掃除をお願いします、次に乗船が控えております午未(うまひつじ)天中殺の方々に気持ちよく過ごしていただくためにも、「立つ鳥跡を濁さず」でいきましょう。
 ・・・・・・はい、それではミーティングを再開します。船酔いのひどい方には梅茶、ショウガ湯、仁丹などをご用意しておりますので、お近くのキャビンアテンダントまでお申し付けください。

 あれ? むこうからミイラか即神仏みたいなのがぞろぞろ歩いてくる。あ、六白金星の方々ですね。たしか大宇宙に散在する八十八カ所のお遍路巡りの旅に出ていたのでした。
 ああ、みなさんだいぶアクの抜けたお顔をしていらっしゃる。よけいなものがそぎ落とされて、カツオ節にも似たすっきりした表情をなさっています。
 孤立無援のなか、きびしい長旅をよう頑張ってこられました、おーい誰かたらいにお湯汲んできて。ささ、わらじを脱いで足をこのお湯にお浸しなさいまし、じんわり温まって皮膚感覚が戻ってまいりますようわぁっ冷たい氷のよう。ああ土踏まずがガチガチで血豆がいっぱい、さぞやお辛かったことでしょうなあ(足を洗いながらもらい泣き)。
 もうすぐ故郷に帰れますよ、故郷の春はさぞや美しいのでしょうね、小鳥がさえずりつぼみが開き、お花の甘い香りがあたり一面に漂って。ああ地球っていいですね。
 仮眠ポッドでふるさとの夢を見て目覚めたら、地球に着いていますからね。あなたはやるべきことはやりました、つとめは果たしました、もうこれ以上悪くなりようがないのでどうぞご安心くださいませね。
 船長からメッセージを預かっております。「地球に戻ったらしばらく放心してください、つまり心をブラブラさせて凝りをほぐしてください。そのあと、あなたが最もやりたかったことをゆっくり始めてください。2014年はあなたを取り巻くすべての環境が、あなたの味方についてくれるでしょう」とのことです。

 七赤金星の方、はい。
 みなさんの今後のテーマは「腐れ縁を切る」です。もうすでに切れかかっている方もいらっしゃるかもしれません。
 この2年間ですったもんだした友情、恋愛、ビジネスのご縁は残念ながら頑張ってつなぎ止めてもやがて消滅する可能性が高いです、たぶん地球に戻ってしばらくすればハッと我に返ってそのことが理解できるかと思います。
 特に「考えてみれば連絡するのはいつもこっち」「2人でいるところを見られるのをいやがる」「会計はいつもこちらが支払う」「平気で嘘をつく」「たいていいつも時間に遅れる」「機嫌を損ねるとこわい」という相手の場合、無理してつきあってもこの先が思いやられますので、今のうちにすっぱりご清算なさることをおすすめします。
「ひとつ手放すと新しいものがひとつ手に入る」という法則をご存じでしょうか。物でも人間関係でも同じです、試しにクローゼットで眠っている洋服を1枚処分してみてください、じきにもっとステキな服が見つかると思います。
「ストレスフルな人間関係を背負ってよろよろ歩くくらいなら、1人のほうが身軽で気楽でいいですよ。自分らしい道を選んで歩けば、たぶんもう少し先で、もっとステキなパートナーが登場するでしょう」。船長からのメッセージです。
 春以降、いろいろな別れと出会いがやってくると思いますが、すべて自然現象です。自然の流れに逆らわず、ご自分にとって無理のない道、よりウキウキする道をご選択されますように。

 八白土星の方、はい。
 あっみなさん手とか足とか包帯ぐるぐる巻きですねどうしたんですか、はい山崎さんはカーテンはずしてるときに脚立から落っこちて足首折った、うん高橋さんはママチャリに体当たりされて尻餅ついて腰ひねった、ええ森さんはバレーの練習で突き指しちゃった、うわあ姉小路さんは大口開けて特大ハンバーガー食べてたらあごはずれちゃったんですか。痛そうだなあ早く治るといいですねお大事に。
 八白の方は心の傷というよりむしろアクシデントで身体のほうにダメージ出ちゃった方が多いかもしれませんね。
「ケガは注意を促すサイン」と運命学では申します。足首折ったのは「腰を落ち着けてよく考えましょう」というサイン、腰ひねったのは「腰を低くして謙譲の美徳を養いましょう」というサイン、突き指は「ものごとの取り組み方を変えてみましょう」というサイン、あごはずしたのは「自分の言うことに責任を持ちましょう」というサインかもしれません。サインを無視して同じことを繰り返してるとまた同じ目に遭うことがありますので、各自ご注意ください。
 船長からのメッセージは、と。これだ。「悩んだときは今までのやり方を見直して、新しい方針を採用してみてください。今までとは違うやり方、違う切り口、違う考え方で望めば、きっとうまくいくはずです」とのことです。
 2014年はどうやら脱皮の年になりそうですね。辰巳の八白は宇宙の旅を経てさらにひとまわり大きく成長できる予感がします、私たちも期待しております。八白の前途に乾杯! 

 九紫火星の方、ああっ手にあごを乗っけて視線を落として意気消沈してる。ロダンの考える人みたいで何だかカッコいいです。
 はい九紫の井野瀬さん何でしょう、えっ封印した過去にボコボコにされちゃった? ダメージがひどすぎて人生終わったも同然?
 だからあれほど忠告しましたのに、辰巳の九紫は本当に唯我独尊&直情径行なんですから。でも済んでしまったことは仕方ありません、誰だって叩けばホコリが舞いますよ、間違いのない人生なんてどこにもないです。
 大事なのは失敗を悔やむことより、これからどうするかを考えることです。だって時間は前へ前へと進んでいくんですから。「覆水盆に返らず」「後悔先に立たず」「逃した魚は大きい」などと古来申します、さあいつまでも過去を反芻しない、牛じゃないんですから。
 そうですね、地球に戻ってからもしばらくは静かな思索の時間が与えられるかと思います、ちょっぴり不安や孤独を感じることもあるかもしれませんが、この宇宙空間にいるよりはだいぶマシでしょう。
 手負いのクマいや手負いの九紫は内面世界を深く探求することによって人間性の幅が三つ折りヒダ×9個、高さが窓枠下より15センチプラスされてかなり魅力的になりますってカーテンか。
 船長からのメッセージは、・・・・・・ありません。いやそんなはずは。あった。ああよかった。「この1年は人間形成の年です。たくさん本を読み、たくさん人の話を聞き、そして自分の心を何らかの形で表現してください。きっと素晴らしい作品ができ上がります。そしてそれはあなたの生涯の大切な宝ものになるでしょう」。
 生みの苦しみが伴う重要な1年になりそうですね、でもあなたならきっとだいじょうぶです。

 以上でミーティングを終わります。
 辰巳天中殺のみなさん、お疲れさまでした。この2年間の宇宙の旅は、私たちキャビンアテンダントにとっても、非常に有意義で思い出深い旅でした。
 どんなときも笑顔を忘れない、知恵と勇気と根性のあるみなさんとご一緒できましたことを、私たちは心から光栄に思います。
 地球に帰還されましても、どうぞ本船の卒業生であることに自信と誇りを持ち、人にやさしく親切に、そしてご自分の気持ちに忠実に、力強く人生を歩んでいってください。
 重力に慣れるまでしばらくは浮遊感や不安定感を感じるかもしれませんが、長くても半年以内には治まりますので心配ありません。
 
 それでは、本船は間もなく大気圏突入の段階に入ります。多少の揺れや室温上昇を感じるかもしれませんが、すべて想定内の現象ですのでご安心ください。
 地球到着は2月3日です。どこからか豆が飛んできて宇宙船の窓にぱらぱら当たるかもしれませんが、節分の豆ですので気になさらないように。

 それではどなたさまも肩の力を抜いて気を楽になさり、あともう少しだけ、快適な空の旅をお楽しみください。そして12年後、またお会いしましょう。Thank You。