念力

わ
 小さいころ、近所の子供会に参加したことがある。忘年会だったか新年会だったか忘れたが、最後のイベントはじゃんけん大会だった。

「これが3等の賞品、これが2等の賞品」
 ゲームが始まる前に、賞品が紹介された。
「これが1等の賞品だよ」
 裏に孫悟空が描かれた、オレンジ色のつやつやしたトランプが差し出された。私はそれを見た瞬間、何の邪念もなく「ほしい」と思った。 
「じゃんけん、ぽん!」
「あいこでしょっ!」
 よくわからないうちに、あっけなく勝ち抜いてしまった。トランプは私の手にあった。
 じゃんけんを出す手に念力を込めたわけではないし、「勝ち抜いた自分」を頭に思い浮かべたわけでもない。もちろん、呪文を唱えて相手にパーやグーばかり出させたわけでもない。ただ単純に「ほしい」と思っただけである。
「自分はじゃんけんが弱いから勝てないだろう」とか「ライバルが多すぎるからきっと他の子の手に渡ってしまうだろう」などとよけいなことを考えず、無心にじゃんけんをしたら、ほしいものが手の中に飛び込んできた。それだけだ。 

 不安や恐れで思う力の勢いを弱めない限り、そしてそれが他人に害を及ぼすものでない限り、思う力=念力はすべてのものを通過してまっすぐに飛ぶことをそのとき知った。

2009.10.01