ねずみ男

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 元日に氏神さまを参拝。
 年々長くなる行列の最後尾に並び、順番を待つ。
 急な階段を一段ずつ上った先には、茅の輪(ちのわ)がある。茅の輪とは、茅(かや)草で編んだ大きな輪っかのことである。参拝者はこの輪を八の字を描くように3回くぐって回り、1年のケガレを茅の輪に落としてから神前に向かう。
 1時間後、やっと茅の輪がくぐれるところまで来てふと振り返ると、自分の真後ろにいつのまにか背の低い男が立っている。
 あれっ後ろはたしかオレンジ色のダウンを着た長身の男だったはず、くたびれたねずみ色の上着に黒いズボンを履いていろいろなものが入った紙袋をぶら下げた年齢不詳のこの男はさっきまで絶対に存在していなかった、いったいいついかなる方法でここに入り込んできたのだろうと頭をひねるがわからない。無彩色の服を身にまとった男は背中を丸めたままじっと立っている。
 なんでこんなねずみ男みたいなのが自分の後ろにいるの、いったいどこから湧いてきたの、にしてもなぜオレンジ色の男は割り込みされても知らんぷりしているの、正月早々ことを荒立てるのもなにだからスルーしようと決めたのかといろいろ考えながら茅の輪をぐるぐる回る。
 神前で感謝と誓いを述べてからさあ御札買っておみくじ引いたろかと授与所へ向かうと、ねずみ男がぶつぶつ言いながら自分のそばをかすめ通り、行列の脇をスーッと歩いて行った。誰もその男に視線を移さない。
 けっこう周囲から浮いているのになぜ誰も見ないのかな不思議だなあと周囲を見渡して視線を戻すと、ねずみ男は煙のように消えていた。 
 あれは果たしてリアルだったのだろうかそれとも自分だけに見えていたのだろうかと首をかしげながら甘酒をもらい、ガーッと飲み干してからおみくじを開く。

 一番 大吉 
 朝日かげ たださす庭の松が枝(まつがえ)に 千代よぶ鶴のこえののどけさ
「天のお助けを受けてもろもろの災いが去り、大きな喜びがあるでしょう」

 ひやっほうと飛び跳ねながら、あのねずみ男はもしかすると福の神だったのかもしれないぞと思う。いやそんなわけはない、福の神が無彩色の服を着るはずないし、汚れた紙袋なんか持つわけないし、ぶつぶつ独り言なんかも言わないだろうと否定するがそういう定番はいったい誰が決めたのだという声が聞こえてきて混乱する。
 お盆やお彼岸や年末年始など節目どきにはこちらとあちらの境界線がゆるんで変なものが道ばたにごろごろ登場するのは知っていたが、まさか初詣にも来るとは知らなかった。まあいいやねずみ男、明けましておめでとう。

 みなさんも明けましておめでとうございます。
 2013年も明るく楽しく元気にいきましょう。いいことがたくさんありますように。

2013.01.04