黄金虫

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 銀行に行った帰り道、アスファルトの地面を黄金虫がもそもそ歩いていたので拾って帰る。本来、虫は苦手なのだが、黄金色に光り輝く甲羅についつい魅せられ、人差し指に乗せて持ち帰ったのである。コガちゃんと名づける。
 蓋付きの小箱にきりで穴をぶすぶす開け、新聞紙を細かくちぎって敷き、小皿の上に輪切りのなすを乗せてやる。食べない。固いのか。じゃスイカの切れ端。パッと吸い付いた。
 スイカによじ登っている姿をよく見ると、黒い6本の脚それぞれにトゲトゲが生えている。これ、どこかで見たことあるなと不吉な気分になる。
 あ、ゴキブリじゃんと気づいてゾッとするが、「いいえこれはスカラベ、古代エジプトでは太陽神の化身とあがめられた聖なる虫」とどこかでエコーのかかった声が聞こえて気を取り直す。 

「暑いなあ、早く夏が終わらないかなあ」と思いながら本を読んでいると、頭上でバタバタバタバタといやあな音がする。ハッと見上げると大きな黒い物が天井をぶうううんとうなりながら飛び回っている。
 いやああああっ! 
 楳図かずおのマンガに出てくる女の子のような顔をして部屋を飛び出す。大きな黒いそれは窓ガラスにバン! と大きな音を立ててぶつかった。
 あああやっぱり虫はいや、大きらい、飛んでる姿なんかまんまゴキブリじゃんとうんざりしながらコガちゃん、どこいったのコガちゃんと呼ぶが返事なんかするわけがない。もしやと思って窓ガラスの下のさんを見ると細いすきまにはまってじっとしている。バカなやつ。指先で拾い上げてスイカに貼りつけてやる。

 翌日、友人宅で打ち上げ花火を鑑賞。ラスト5分は天空に大輪のラメの花が「どうでえこれでもかっ、ええいこれでもかあっ」と咲き乱れた。日本人の美意識と花火師の心意気を感じる。圧巻。
 友人が用意してくれたグリーンタイカレーやポテトサラダや生ハムメロンも圧巻。
 満員電車に揺られ少々ぐったりして帰宅、すぐにコガちゃん箱のふたを開けて中をのぞく。金色のコガちゃんは1人スイカ山に登ってじっとしている。どうすんのこれ、気持ち悪いけどかわいいけど気持ち悪いけどかわいいけどが頭の中で花火のようにバンバン打ち上がる。|

2010.08.01