夢枕に立つのは死んだ人間ばかりでなく、ときに生きている人間も出てくることがある。
いわゆる「生き霊」というやつである。
私はこの経験をしたことがある。
かりに、名前をAさんとしておこう。
彼女はけっこう恵まれた環境にいる人なのだが、変に人をうらやむ癖があった。たぶん自分に自信がなかったのだと思う。
面倒なのでなるべく距離を置くようにしていたのだが、何かのはずみで私に興味を持ってしまったらしい。
ある日の明け方、眉間のあたりに映像がフッと浮かんだ。
白い壁から右半身だけ出して、Aさんが私の家の中をじっとのぞき込んでいるのである。
目が覚めて、「これは夢ではない」とわかった。
その数日後、また同じ映像を見せられた。
前回と同じように白い壁から右半身だけ出して、こちらをのぞき込んでいる。
「うらやましい」というどんよりした感情が伝わってくる。
(私はAさんからうらやましがられる覚えは何もない。)
やがて、その感情が「うらめしい」に変わってこちらに伝わってきた。
前回より投影の時間が長い。
「しつこいやつだな」と思い、猛烈に腹が立った。以後、その相手と関わるのは一切やめた。幸いにも私の存在を忘れてくれたのか、それ以降、彼女が夢に出てくることはない。
死者は夢に何かしらの意思を伝えに来るが、生き霊にはそれがない。
こちらにはどうしようもない感情を自分勝手にぶつけてくるだけである。
そこに愛はない。
2009.07.27