私はもう出かけなければならない。けれど靴を履いていない。
ここはどこだろう? 大きな屋敷のようだ。
広間の中央に、靴が山のように積み上げられている。
どれを履いて行こう?
一足ずつ手に取ってみる。
これは形がいびつだし、あれは何だか色あせているし、それはデザインが流行遅れで気に入らない。
あれもだめ、これもだめ。
靴を探しているうち、あ、そうかと気づく。
ここにある靴、全部古いんだ。自分が今までさんざん履いてきた靴だから、もう二度と履く気になれないんだ。
すると、上から声が響いてきた。
「ここにある靴はもうボロボロだから履けないよ。靴にお疲れさまと言ってやりなさい」
そこで目が覚めた。
今までの人生が終了したのだなと思った。
私の足はかなり大きいので靴選びには毎回苦労するが、考えてみれば、今現在に至るまでかなりの量の靴を消費している。
何年にも渡り長く愛用した靴もあれば、1回履いただけで放り投げてしまった靴もある。
希望に燃えて履いた靴もあれば、失意のどん底で履いた靴もある。
怒りに身を震わせながら履いた靴もあれば、心をときめかせて履いた靴もある。 靴の歴史をたどっていけば、私という人間がたどってきた道のりに重なる。靴は人生の乗り物なのだ。
夢の中で、私は素足だった。
「さあ、どうする? お前は次はどんな靴を履くのかね?」
神さまの問いかけに、私はただ茫然と立ち尽くしていた。古い靴が目の前にどれだけたくさん積み上げられていようとも、もうそれを履けないことを知っていた。
2011.07.16