靴の夢

img_1426
 私はもう出かけなければならない。けれど靴を履いていない。
 ここはどこだろう? 大きな屋敷のようだ。
 広間の中央に、靴が山のように積み上げられている。
 どれを履いて行こう?
 一足ずつ手に取ってみる。
 これは形がいびつだし、あれは何だか色あせているし、それはデザインが流行遅れで気に入らない。
 あれもだめ、これもだめ。
 靴を探しているうち、あ、そうかと気づく。
 ここにある靴、全部古いんだ。自分が今までさんざん履いてきた靴だから、もう二度と履く気になれないんだ。
 すると、上から声が響いてきた。
「ここにある靴はもうボロボロだから履けないよ。靴にお疲れさまと言ってやりなさい」
 そこで目が覚めた。 
 今までの人生が終了したのだなと思った。 

 私の足はかなり大きいので靴選びには毎回苦労するが、考えてみれば、今現在に至るまでかなりの量の靴を消費している。
 何年にも渡り長く愛用した靴もあれば、1回履いただけで放り投げてしまった靴もある。
 希望に燃えて履いた靴もあれば、失意のどん底で履いた靴もある。
 怒りに身を震わせながら履いた靴もあれば、心をときめかせて履いた靴もある。  靴の歴史をたどっていけば、私という人間がたどってきた道のりに重なる。靴は人生の乗り物なのだ。  

 夢の中で、私は素足だった。
「さあ、どうする? お前は次はどんな靴を履くのかね?」
 神さまの問いかけに、私はただ茫然と立ち尽くしていた。古い靴が目の前にどれだけたくさん積み上げられていようとも、もうそれを履けないことを知っていた。

2011.07.16