師走の日曜日に銀座を歩く。
なんでこんなにたくさん人がいるの、あっちの道もこっちの道もぎゅうぎゅうじゃん、そうやっていちいち驚いていると空腹から胃がきりきり痛み出したので、あわてて目の前の喫茶店に飛び込んだ。軽く何か食べなくてはならない。
「いらっしゃいませ」
満員だったがなんとか席が見つかる。
やっぱり銀座の店はいいなあ、窓からのながめはきれいだしソファは革張りでふかふかだし店内もゴージャスで高級感たっぷりだ、しゃれた絵だって飾ってあるぜ。おっとお姉ちゃんありがとうクラッシュアイス入りのお冷やかい、しかし何だね店が高級だとメニュー表のしつらえも高級だね、革張りの重い表紙をどかんと開くとコーヒーとミニ茶菓であっ1500円、サンドイッチとかの軽食はうわっ単品で1500円から3000円、それにドリンクプラスすればがーんもはや最低でも2500円、下手すると4000円、これ何かの間違いですかと何度もページをめくり直すがもちろん値段が変わるわけもない。銀座一等地の喫茶店の価格設定は世界一といやが応でも認識する。
「お決まりでございますか?」
イリュージョンで脱出する前に店員がやって来た。ふるえる人差し指でここここれください、このミニ茶菓ついてるやつと指さす。
「かしこまりました」
ドキドキする心臓を無視してiphoneを取り出してフリックしたりタップしたりするがもしかすると銀座の3G(携帯電話回線)はパケ放題が通用せず特別価格なのではないかと阿呆な妄想をして恐ろしくなった。
「お待たせいたしました」
オーダーしたものが運ばれてきた。ミニ茶菓はひとくちで胃袋の中、コーヒーは5分で飲み終わる。再び窓の外に目をやる。人がぞろぞろ歩いているだけなので5分で飽きる。
このままがまんして座っていようか、いや時間がもったいない、まだ買い物が残っているからそうのんびりしてもいられないと思い伝票をつまんで席を立った。
15分で1500円ということは1分の席料が100円かと無意味な計算をしてから、仕方ないこういう日もある、お前は銀座のど真ん中に流れる運気を15分間1500円で買ったのだと自分に言い聞かせて再び街に出る。
薄暗くなり始めた銀座の街は徐々に人が減り始めて少し寂しい。縦横に整然と区画された街路には国内外の一流ブランドのビルが建ち並び、色とりどりのネオンを放って美しい。
ここに流れる気は力強くて密度が濃く、キリッと筋が通ってすがすがしい、そして粋(いき)である。あまり不幸そうな人は歩いていない、若い夫婦も一人歩きの男も女も親子連れも老人もみなそれぞれの人生を楽しんでいるように見える。
銀座という街はなぜここまで運が強いのか。
皇居が近いからであろう。
そこに龍が生息していなければ、江戸から現在に至る首都東京の、ひいては日本の繁栄はあり得なかったに違いない。
400年前に家康が見つけて飼い慣らした龍は江戸城が皇居に変わっても生息し続け、鉄道や道路を通じてそのパワーを今もなお全国津々浦々へ流している。銀座は龍のお膝元、だから運が強いのだ。
なぜ山手線は環状で、真ん中を通る中央線によって陰陽の形状を描くのか?
・・・・・・龍を守るために違いない。
龍はどうやってパワーアップするのか?
・・・・・・それは日本人の行動や心のあり方と深くシンクロするに違いない。
龍の今のご機嫌は?
・・・・・・あまり芳しくないかもしれない、しかし龍は気分屋だから何かをきっかけにいずれ機嫌を直すだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、4丁目の交差点に出た。大通りに面した和光のディスプレイは白とゴールドで品よくダイナミックにまとめられている。「さすがだねえ」と感嘆したとたん「そうよ、だってあたし銀座のシンボルだもん」と言わんばかりにキーンコーン、カーンコーンと上から大きなチャイムが鳴り響いた。
年の瀬に鐘が鳴るなり大時計
龍も、かれこれ100年近くこのチャイムを聴いているに違いない。
2011.12.05