秋のお彼岸

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 秋のお彼岸入りの深夜、ふと目が覚めた。
 東北方位から、ごうごうと強い風が吹きつけている。まるで大きな鬼が怒りながら泣いているような、ものすごい音だ。
 そうか、鬼門が開くのだなと気づく
 秋分の日を中日として、前後3日間は秋のお彼岸だ。あちらの世界からこちらの世界を懐かしむ霊たちが、「フリーパスだからどんどん行こうじゃん!」と、わらわらこの世に押し寄せてくるボーナスウィークである。
 目には見えないが、この期間、こちらの人口(霊口)密度は非常に高くなっていると思う。公園のベンチはぎっちぎち、ディズニーランドは満員御礼、風光明媚な温泉は芋洗い状態に違いない。
「やっぱりシャバはいいよなあ」
「生き返りますねえ」
 打たせ湯を肩や背中に当てながらぼんやり大自然をながめる死霊やゾンビのつぶやきが聞こえるようだ。 
 あちらからこちらに自由に行き来できるなら、こちらからあちらへ行くのもたやすいはずだ。うっかりしていると迷い込む。丹田に力を込め、気を引き締めてこの1週間を過ごしたいと思う。

2009.09.20

秋祭り

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 日曜日の夜、少し足を伸ばして隣町まで買い物へ。帰りに道路を練り歩く御輿に遭遇。秋祭りである。どうりで風が涼しいはずだ。
 通行止めされた道路のど真ん中では盆踊り大会が繰り広げられ、その脇を御輿がわっせ、わっせと練り歩く。その通りにそんなにたくさん人がいるのを見たのは初めてだった。
 今夜はいいじゃん! とばかりに嬌声を上げて夜の道路で遊びまくる子どもたち、大声で笑いながら仲間と世間話に興じる若者たち、寝てしまった小さな子どもを抱いて歩く父親や母親。
 元気な彼らをよそに、御輿を静かに見つめているのは老人だ。缶焼酎を手にした小柄な70歳くらいの男性は、足を引きずりながらずっと御輿について歩いている。太った老婦人は杖で体を支えながら、懐かしそうな目でじっと御輿を見つめている。露店を出している初老の女性は縁石に座り、ビールを飲みながら何も言わずに御輿をながめている。どの顔にも貫禄がある。
 彼らの横顔や後ろ姿を見ながら、この人たちはきっとたくさんつらいことを経験してきたのだろうなと思う。意にそぐわないことや理不尽なこと、悲しいこと、こわいこと、頭に来ること、そしてたまに幸せなことをそれぞれ何十年も経験して、何事もなかった顔をして祭りに参加しているのだ。
 オレンジ色の街灯が、夜の祭りを温かく照らす。
 多かれ少なかれどの人も同じだ、人生はそれほど捨てたもんじゃない、何があっても、どんな人でも、祭りの日はみんな同じ光に包まれる。

2009.09.13

愛と夢の国

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 涼しくなったので東京ディズニーランドへ。園内は最後の夏休みをそこで過ごそうという家族連れで大にぎわいだ。
 人垣の間から「ジュビレーション」を鑑賞。だだっ広い敷地の向こうから、異質なものたちが練り歩いてくる。
 殺風景な舞浜の空き地にわらわらと出現する、原色のキャラクターと人工的な造形物。パレードの手前の広場には、真っ白い彼岸花が一面に咲いている。
 
 日が落ちかけるころ、ウエスタンリバー鉄道に乗る。走れども走れども薄暗い裏山だ。
 茂みの間をかき分けてしばらく進むと、インディアンの母娘が列車に向かって手を振っていた。もう何年も何年も、あの母娘はうっすらとほほえみを浮かべながら手を振っているのだろう。深夜、誰もいなくなっても。
 
 ディズニーランドの夜は暗い。エレクトリカルパレードは最大の見せものだ。闇に光る巨大なイルミネーションは見る者を圧倒するが、その人工的な光はうたかたの夢のごとく、目の前をあっという間に通り過ぎる。
「きみも、友達だよ!」
「いっしょに、行こうよ!」

 ディズニーランドは愛と夢を売っている。つかの間の、数千円で買える愛と夢。
 ずっと昔、ここでかりそめの幸せを味わったあと、この世からフェイドアウトした家族のことが新聞に載っていた。「せめてここでは楽しく過ごそう」という最後の悲願は、はたしてかなえられたのだろうか? 
 空には白い月がぷかりと浮かんでいる。入園者が群れをなして一斉に出て行ったあと、しんと静まりかえった巨大なホテルを仰ぎながら、はかなく消えてしまった彼らのことを少しだけ想う。

2009.09.02