新大久保

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 大久保から新大久保に向かって大久保通りを歩く。平日の夕方というのにやたら人が多いのは各種専門学校やコリアンタウンが近いせいか。
 向かって右側に皆中(かいちゅう)稲荷神社、宝くじやギャンブルが当たるようになると評判の神社だが、通りの喧噪とは裏腹にひっそり静かで誰もいない。
 新大久保駅の手前で大久保通りを左に渡って細長い路地に何となくふらり入ってみるとそこは異世界、マツキヨから韓国料理店から牛丼屋から八百屋からコンビニから何でもありのアイデンティティめちゃくちゃな空間にエスニックな香辛料の香りが充満している。
 においの出所を探すと、すぐそばにドネルケバブの店(ドネルケバブ・・・立てた串に薄切り肉を刺して何層にも積み重ねたもの。外側からあぶり、焼けたところからナイフで削ぎ落としてパンなどに挟んで食べる)。トルコ人(たぶん)の店主が大きなナイフで焼けた部分を削ぎながら、友人とおぼしき中東系の男たちと何か大声で話している。
 あまりじっと見つめていると「買ってく?」とか言われそうなのでゆっくりスルーすると、その先に今度はアラビア語のような言語がのたくる看板を掲げた輸入食材店。カルディコーヒーファームをもっと古くさく田舎くさく仕立てた感じで、デビッド・リンチの映画に出てきそうなミステリアスな雰囲気だ。
 店の奥はもしや異界に通じているのではと一瞬吸い込まれそうになるが、色が黒くて目が異常に大きい濃い顔立ちの店主が店の前に仁王立ちしているので中に入れず、ここもスルーする。
 目だけを出した真っ黒いブルカやニカブ(顔を覆うかぶりもの)をかぶったおばあさんやおばさんがいきなり目の前に出てきたらこわい、とてもこわいと恐れつつ道を突き進むと、細い道路がクロスする交差点に出た。渡った向こうはしんと静かな住宅街で、目に見えない境界線があからさまに敷かれている。
 Uターンして新大久保駅まで引き返し、大久保通りを今度は東新宿に向かって歩く。

 そこはいわゆるコリアンストリートと呼ばれる道で、韓国レストランや韓流スターのブロマイド屋やCD屋や化粧品屋や正体不明の店が乱雑にひしめきあっている。
 新しめのきれいなスーパーを見つけたので中に入ってみた。
 ごま油を塗った太巻きやトッポッキ(一口大の細長い餅を甘辛く炒めたもの)、チヂミ(韓国風お好み焼き)を実演販売しているそばで、店員が大声で何かしゃべりながら冷蔵ケースの中にキムチをせっせと補充している。
 キムチとひと口に言っても白菜キムチから大根キムチ、キュウリキムチ,水キムチ、イカキムチなどいろいろあり、すべて試食できるようになっている。試食している客の間を縫って奥に進むとインスタントラーメンやお菓子、韓国味噌、酒などが棚に整然と陳列されている。
 以前行ったソウルのみやげ物屋とそっくりだ、そうかここは新大久保という名の韓国なのだなと思う。「韓国風」ではなく純粋に韓国、コストコへ行くとアメリカのにおいがするがここは韓国のにおいがする、どちらも日本であって日本ではない。
 ふと気づくと身長180センチはあろうかと思われるお姉さんが自分のすぐ隣で韓国海苔を物色している。いいにおいがするのでたぶんシャンプーしたばかりだと思う。素足にサンダルを履いたお姉さんは背が高いだけでなく横幅もある。胸がラクダのこぶのように突き出している。
 あまりのダイナマイトボディぶりに顔を見やると男のお姉さんである。すっぴんだから仕事前か、お姉さん好き嫌い激しそうだねと話しかけてみたくなるがよけいなお世話なのでやめておく。
 
 韓国語や中国語や日本語が入り乱れて飛び交う大久保通りを、涼しげな目のきれいな女の子がさっそうと通り過ぎていく。だがよく見ると加工率200%の整形顔、カラコンと縁囲みアイメイク&目頭真っ白、激しく色を抜いた髪、限界ダイエットの末たぶん30キロ台までやせ細り足はガリガリ君の棒のよう、まるで3次元アニメのようにペラペラだ。
 激しい思い込みを身に課した人間や過剰なタトゥーやピアスを入れた人間を見ると気持ちが沈むのはなぜだろう、松井冬子の展覧会を見に行ったときも同じ気分になった、たぶん死の香りがするからだろう。彼らの心は誰も手の届かない闇の中にある。

 横断歩道の信号待ちで隣に立ったおばさんは町内会のチラシの束のようなものを手にしている、この人はたぶん日本人だろうと確信していたらいきなり「アンニョンハセヨー」と大声で知人らしき男性に挨拶、勢いよくハングル語で話し始めたので驚いた。アジア人の顔は本当によく似ている、黙っていたら国籍はまったくわからない。
「食べて!」「飲んで!」「味見して!」と威勢よく飛び交う呼び込みの中を泳ぎまわっていると明治通りの交差点、明治通りから向こうはハングルの喧噪がぷっつり途切れた別世界だ。

 東京都新宿区の韓国は百人町と大久保の中にすっぽり収まり、ダイナミックで粗野で奇妙な錬金術を日々繰り返しているように見える。そのカオスぶりは横浜中華街を濃縮還元してマッコリで煮詰めクミンをちょっぴり振りかけてキムチであえたのちテコンドーに熟達したおばさんたちが「ハッ!」「ハッ!」と勢いよく四方八方に蹴り上げているようなイメージがある。ささいなことがなんだかもうどうでもよくなるような力強さとアバウトさとゴリ押し感に満ちたバビロンの街だ。

2012.06.13

辰巳天中殺のみなさんへ その3

よ
 全国の辰巳天中殺のみなさんこんにちは。
 天中殺期間の第一関門である辰月(4月)、巳月(5月)を乗り越えられ、いかがお過ごしでしょうか。2012年2月からみなさんの魂はこの宇宙船で過ごされているわけですが、乗り心地はいかがですか? お気づきの点やご用などありましたら、どうぞご遠慮なくキャビンアテンダントまでお声をおかけくださいね。
 さて、同じ辰巳天中殺のグループでも、九星によって現在の状況がそれぞれ異なると思います。九星別に点呼を取り、安否を確認してみましょう。

 一白水星の辰巳さん、はい。比較的お元気ですね。雲行き怪しくなってきたかな? と思いつつも様子見で洗濯物干したら何となく乾いたのでああよかったというところでしょうか。やっぱり気合いでなんとかなるじゃんって安心しすぎないでくださいね、今はまだ序盤戦ですから。
 これから気をつけたいのは人間関係です。ささいなすれ違いや誤解からカッとなって大事な人を傷つけないようにお願いします。甘えすぎ、わがまま、我欲のむき出しは禁止、「いつもありがとう」「お世話になります」「ごめんなさい」で難逃れしてください。

 二黒土星の辰巳さん・・・・・・・、いらっしゃいませんね、どこに行ったかな。ああ、やっぱり冷凍室に潜り込んで冬眠してますね。矢面に立たされて四方八方からやいのやいの言われ、さぞお辛かったことでしょう。
 二黒はめったに弱音を吐かない根性の星ですが、人間だもの、そりゃうまくいかないことだってありますよ。特にこの4月、5月はもまれにもまれて大変でした、ええ、このままそっとしといてあげましょう、じきに誰かにゆり起こされるでしょうから。もしまた試練が始まったら、なすがママならキュウリはパパだ、なんてバカを言いながらね、それなりにゆったりお過ごしくださいね。

 三碧木星の辰巳さん、えっ? もうこんな宇宙船で暗黒の大宇宙をふわふわ彷徨うのはいやだ? 飽きたから地球に帰してくれ? 
 あのねどこにいても一緒なんです、天中殺期間ってエア牢獄にいるようなものですから。大声出しても手足バタバタさせてもみんなからスルーされるでしょう? エネルギーを無駄遣いしないためにも、ここで静かに過ごされてはいかがですか。6月以降は少し気持ちにゆとりができますから、・・・・・・あーあ勝手にハッチ開けて飛び出しちゃったよチャレンジャーだなあ。どうせふんわり引き戻されるでしょうから、放っておきましょう。

 四緑木星の辰巳さん、はい。アクが強めの辰巳天中殺の中で珍しくさわやか系のあなたも、さすがに少し疲れた顔をしていらっしゃいますね。ん? お仕事のスポンサーが離れて行った。え? あなたは恋愛で大もめ中。そうですか。
 天中殺期間にはおおむねどなたさまにも厄落とし現象が起こります、お辛いとは思いますがトラブルイコール軌道修正のチャンス、清算上等、去る者なんか追うもんかの精神をもたれてはいかがでしょう。クローゼットでむだに場所を取ってる服を処分すると、もっと素敵な服が手に入りますよ。

 五黄土星の辰巳さん、あっやばい元気そう! さすが五黄、苦労を苦労と思わないなにくそ精神&てめえこのやろう精神で進むところ敵なしですね。でもちょっと足下見てみてください、15センチほど浮いてませんか? 進んでると思ってたけど実は足をバタバタさせているだけなのでは? 
 あのね、たしかに五黄はいま、勢いあるんです。でもそれは辰巳天中殺以外の五黄のお話で、あなたの場合は勢いが裏目に出て逆噴射する恐れがあるのでお気をつけくださいね。特に新規事業の立ち上げ、投資、転職、家の新築、結婚、遺産相続、みかん狩りなどのイベントは慎重に。自分が得することだけ考えて行動すると神さまからハリ扇くらいます、「お先にどうぞ」もしくは「you go first」を新規メンバーズ登録のパスワードにしてください。

 六白金星の辰巳さん、あっ腕組みしてあぐらかいてる、大仏様みたい。現実主義の辰巳天中殺の中で唯一六白金星は哲学的なんですよね、カッコいいです、さまになってます。でも眉間にしわ寄せて固く目ぇつぶってるということは、もしかすると身辺に一大事ありました? この世の終わりみたいな?
 ・・・・・・仕方ないです、そういうときもありますよ。夏に入れば少しご気分が回復すると思いますので気を楽に・・・・・・あっ寝てる! いびきかいてるじゃないですか、どうりで静かだと思った。繊細なんだか太っ腹なんだか六白ってよくわからないです。

 七赤金星の辰巳さん、・・・・・・いませんね。あっ千鳥足でふらふらこっちに来た。え? フーロローロのロリンクラーでハイロール、ああフードコートのドリンクバーでハイボール飲んできたんですか、うわっ酒臭い。4月、5月は予期せぬトラブル続出できりもみ状態でしたからストレスが半端ないのでしょうね、お察しします。
 七赤はたしかにお酒お好きですけど、辛いときはお酒で解消しようとせずにライブラリー室で漫才や落語やお笑いビデオをご覧になることをお勧めします、笑いって強力な邪気除けになりますから。運気を上げたいなら1日1回笑ってください・・・・・・って盆踊りしながらあっち行っちゃった、なぜ踊ってるのでしょうか。七赤ってどんなときでも陽気なキャラですね、すごくいいと思います。

 八白土星の辰巳さん、はい。あれ、いつもはポーカーフェイスの八白さんが浮かない顔をしていますね。もしかすると金銭面で何か深刻な問題が? 遺産問題でもめてる? 投資が失敗した? 貸したお金が返ってこない?
 うーん困りましたね、それ厄祓い料と思ってあきらめちゃったらどうでしょう、ああやっぱり無理ですか。八白土星はけちんぼいや金銭感覚がしっかりしてますからねえ、でも出てった女房とお金は追っちゃいけません、それなりの理由があって出ていくんですから。いいお勉強になったと思える日が早く訪れるといいですね。

 九紫火星の辰巳さんは・・・・・・保健室ですね、たぶん。絶叫系のジェットコースターに連日乗りまくってたら、いかなスリル好きの九紫さんといえどバテますよそりゃ。4月、5月の乗車ノルマは超過密でしたけど、6月からは回数が少し減るはずですから気を楽になさっていただきたいと思います。
 パキッと竹割ったように見えて意外にデリケートでアーティスト気質なんですよね九紫さんって。気分と体調が回復したらあそこのステージで弾き語りでもしていただきましょうかね、「地球は今夜も青かった」なんてね。
 
 ・・・・・・はい、とりあえずみなさん全員ご無事でよかったです。これからもさらに盛りだくさんな試練に見舞われるかもしれませんが、辰巳さんなら大丈夫、きっと乗り越えられます。
 なにせ6つの天中殺グループの中で最も逆境に強い人たちですし、「こりゃダメだ」と思ったら素直に撤退して物陰に身を潜め、木の実や雑草を食べて栄養補給しながらじっと状況をうかがう野戦部隊のようなたくましさをお持ちですから。コンバット(=アメリカ陸軍歩兵部隊)みたいでかっこいいです。
 
 では、これでミーティングを終わります。どなたさまも肩の力を抜いて気を楽になさり、引き続き快適な空の旅をお楽しみください。thank you.

2012.06.07